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アナログからデジタルへ-進化するデジタルはアナログ世界にどう向き合うのか-

日本機械学会誌,Vol.114,No.1112,巻頭言(2011): 小特集号「アナログからデジタルへ-進化するデジタルはアナログ世界にどう向き合うのか-」の発刊に際して

■今日、デジタル・デバイドという言葉の概念すら過去のものと思われるほど、私たちの生活にはすでに様々なデジタル技術が浸透している。テレビや携帯電話、カメラや時計など身近な機器においてのみならず、高精度な計測機器、音響・映像機器、情報通信機器から、最先端の医学や天文学におけるデータ処理や情報解析、果てはアートの分野に至るまで、ハード・ソフトの両面において、デジタル技術への転換が進んでいる。このような広範な分野におけるデジタル技術の急速な発展に際して、デジタル技術がどこに向かおうとしているのか、或いはどこに向かうべきかを見極める必要があるのではないだろうか。

折しも日本では2011年7月に、テレビ放送という巨大なメディアがアナログからデジタルへ移行するという社会基盤の大きな節目を迎える。そこで本特集号では、各分野におけるデジタルの最前線を紹介するとともに、歴史的な変遷も踏まえてアナログとデジタルに纏わる事例を俯瞰しつつ、将来の機械工学・機械技術がどこへ向かうのかを考察する。

■このようなデジタル技術の躍進の中、デジタルに相対する概念としてのアナログと、これまで様々な分野で社会を支えてきたアナログ技術は古いものとなってしまうのであろうか。そしてアナログ技術は先端工学の中で淘汰されてしまうのだろうか。ここで再確認しておくべきことは、現実の世界を構成する実体のすべてはアナログ世界に属するものであり、私たち自身を含め、様々な物質とその物理量としての現実の世界は、アナログとして今後も厳然と存在するという事実である。この事実をおいて、いわゆるヴァーチャルな世界を再現するデジタル技術の発展のみを追い求めることは、将来的に、人間社会からの乖離と望ましからぬ結果を招くことを覚悟すべきかもしれない。

アナログの世界やそれを捉えようとするアナログ技術が古いのではなく、むしろデジタル技術がどこまでアナログである現実に近づくことが可能かといった捉え方が妥当なのではないか。つまりデジタル技術は、実体としてのアナログ世界を表現する/制御する/予測するツールとしてどこまで進化できるかと考えるべきであろう。また人間の感情や疾病といった概念や事象がアナログである限り、デジタル技術はそれ自体が目的ではなく、あくまでもその分野での技術的困難を克服する優秀なツールとして位置づけられるべきであろう。

■一方で、デジタル技術によって対象を究極まで細分化すれば、アナログの世界に到達するのではないかといった考え方もある。しかし「時間の概念」といった事例に当てはめれば、デジタル計測によって時間をどれだけ細密に計測しても、データは離散した数値による表現であり、連続する現実の時間そのものとなることはあり得ない。アナログ世界とデジタル世界の接合あるいは融合が可能であるか否かの解を出すことは、現時点では不可能と思われるが、機械工学・機械技術の進歩がアナログ世界とデジタル世界の橋渡しを実現し、社会の幸福の追求に貢献することは可能である。この視点に立てば、データが劣化しにくく、ノイズ除去によるデータの復元が容易であるといったデジタル技術の特徴を最大限に活かした、広範な分野における応用はあるべき方向であろう。

■人間の生体や感性を対象とするバイオ・テクノロジーやヒューマンインターフェイスなどの研究分野を考えると、アナログ的センスの重要性は明らかであるが、このような研究分野においても、デジタル技術なくしてはもはや研究自体が成り立たないとされる。人間の五感を含めたアナログ的センスとその潜在能力を損なうことのないように留意しつつ開発が進められるならば、デジタル技術の進化と普及は人類の福音となるだろう。アナログへの発展的回帰と次世代アナログ技術への進展の可能性も含めたデジタル技術の究極の進化に大いに期待したい。


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