ピンポイント花粉予報
受験シーズンに受験生の心情をはばかることもなく、「落ちる」「落ちる」と大騒ぎになったロシアの宇宙船ミールも予想どおりに南太平洋に落下した。もっとも、ロシア宇宙管制センターが予想した落下予想地点は南緯44度、西経150度であったが、米国のレーダ追跡によると、落下中心点は南緯40度、西経160度と報告されているから、1,000 km以上の誤差があったことになる。宇宙的なスケールでは誤差の内かもしれないが、南太平洋の国々にすれば失礼な話で、いやそれどころか、かなり危険な話で、シベリアに落下させればいいとの意見ももっともだと思えてくる。
単純な運動方程式で記述できる宇宙船の軌道予想ですらこの程度であるから、天気予報や地震予知などの自然現象の予測が当たらないのも無理からぬことと思っていたら、天気予報(短期)の的中率は80%を超えているそうだ。最近では、自然現象をさらに精密に予測しようとする試みも始まっている。ピンポイント天気予報もその一つであるが、今年の春先には新しい花粉予報に注目が集まった。花粉症に悩まされている人がそれだけ多いということだろう。
これまでの花粉予報は、自然落下した一日分の花粉の個数を、顕微鏡を用いて目視で計測し、これに温度や風速などの気象情報を勘案して半経験的に行われていた。したがって、労力もかかるし、時間的・地理的にきめの細かい予報をすることは困難であった。これに対して、今春、NTTと日本気象協会が協力して、ITを活用した新しい花粉予報システムの実験を行った。花粉センサを花粉発生源であるスギ林の近くに配置して、花粉の個数をリアルタイムで計測する。さらに、温度や風速などの気象情報を用いて、花粉の飛散シミュレーションを行って、きめの細かい花粉予報を提供するものである。48時間先まで3時間ごとのスギ花粉予報を提供したところ、大きな反響があった。現在、予報精度の検証を進めているが、ピンポイント花粉予報が実現される日もそんなに遠くはないようだ。
さて、私も十年来のスギ花粉症に悩まされているが、調べてみると、スギ花粉症の歴史はそれほど古いものではない。現在、日本人の10人に一人がスギ花粉症に罹っており、国民病のように言われているが、わずか40年前に日光で発見されたにすぎない。海外にも花粉症はチャントあって、日本生粋のスギ花粉症にイネ科花粉症とブタクサ花粉症を加えて、世界の三大花粉症と呼ぶそうだ。牧草などのイネ科花粉症は北半球の文明国で猛威を奮っているが、イギリスで最初に発見された。花粉症のことを英語で枯草熱(hay fever)と言うのはこれに由来しているらしい。一方、ブタクサ花粉症はアメリカ生まれで、現在でもアメリカ人の10人に一人を悩ませている。
話が少し脇道にそれたが、欧米の花粉症にはすでに130年もの歴史があるが、それでも免疫学的にはまだ不明のことも多く、最大の予防対策は花粉を取り込まないことだそうだ。きめ細かな花粉予報の実現に大きな期待が寄せられる所以である。
将来的には、ピンポイント花粉予報にとどまらず、いわゆる環境予知も可能になるだろう。うまく人類の幸せに活かしていく術(すべ)を磨きたいものである。