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「安全・安心」小特集に寄せて Expectations for the Special Issue "Aiming at Realization of the Safe Society&qu

エレクトロニクス実装学会誌, Vol.10, No.6(2007), 特集/安全・安心

■家庭菜園の価値  今年の夏は玉ネギ、ジャガイモのできが非常に良かった。自宅の近くにわずかな休耕地を借りて、子供の遊び場と兼用の家庭菜園をはじめてから20年余りになるが、徐々に拡張を重ねて、今では広さも100坪ほどになった。ジャガイモを収穫した後も、トマト、茄子、ピーマン、サヤインゲン、里芋、とうもろこし、キュウリ、ニガウリ、スイカなどの夏野菜が元気に育っている。最初は惨憺たる結果だったが、趣味の農業でも20年もやっていると、その地域に適した播種期なども自然に覚えて、ジャガイモやダイコン、白菜などは何とか自給できるようになった。ここ何年かの異常気象には長年の試行錯誤から得た知識やノウハウも通用せずに自信をなくすことも多いのだが、これは篤農家も同じなので半ば諦めている。最近では、農薬の残留毒性や化学肥料の過剰投入が問題になっているが、家庭菜園では、種をいつ撒き、苗をいつ植え、どんな肥料や農薬を使ったか、どんな生育状況かを毎日見守ることができる。すなわち、美味しさに加えて、安全・安心であることに大きな価値があると思っている。  さて、年金記録問題や牛肉偽装事件など、国民生活の安全・安心を根底から揺るがすような問題が、連日のように新聞を賑わせている。このような社会システムの安全・安心も、基本は家庭菜園と一緒であり、国民からその運用状況がキチンと見えるシステムを構築することがまず必要であるが、その仕組みを理解しておくことも重要である。このような観点から、本小特集では、「健康」、「医療」、「車」などのさまざまな分野における「安全・安心」システムの研究開発の状況が報告されており、時宜を得た小特集と言えるであろう。

■安全だけでなく、安心の研究も  わが国では、科学技術が解決すべき重要な課題として「安全・安心」が取り上げられ、本小特集でも紹介されているように、センサや通信ネットワークを利用した危険検知や安全確保を目的とする研究開発も活発になされている。しかしながら、このような安全確保を目的とするシステムは、複雑・大規模になりやすく、プライバシー保護も難しいという課題も抱えている。一方で、われわれは日常的な社会生活において、実にいろいろな不安を感じながら生活している。そうであれば、安全を確保するシステムだけでなく、プライバシー保護を図りながら、安心感を提供するシステムなども、国民生活の安全・安心に資する効果的で重要な研究開発と考えられる。安全・安心の基盤として、安全確保(技術)の研究が重要なことには議論の余地がないが、これに加えて、安心感提供(心理・感情)の研究も重要であることを忘れてはならないだろう。  例えば、通常の対面コミュニケーションでは無意識に伝達されている雰囲気情報(人の感情情報や周囲の環境情報)を、情報通信を用いて伝達する雰囲気コミュニケーションの研究が進められている。非明示な(感覚的・イメージ的な)雰囲気情報を利用すれば、プライバシー保護を図りながら、安心感を提供(不安感を払拭)するシステムを開発することができるかもしれない。ここで、通常時には「安心感提供」に留めること、つまり、危険の検知・防止という従来の「安全確保」に深く踏み込まないことによって、低コストで効果の大きいシステムが創出できる可能性もある。もちろん、緊急時には、リアルな実画像や実音声、さらには警告情報などを提供する安全確保システムが必要であることは言うまでもないが…。

■結びに代えて  安全・安心の研究開発には、工学だけにとどまらず、医学や心理学をも含む非常に幅広い科学的な知見が必要とされる。しかしながら、いずれにしても安全・安心な社会システムを構築するためは、センサや信号処理回路などの新規で高信頼なデバイスが不可欠であり、これなくしては、すべてが架空の議論となる。実装の研究開発には大いに期待したい。


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